2010年02月16日

星の王子様

テーマ:キャリアマネジメント

 星野さんは、ある程度の規模の児童向け玩具メーカーに勤め、事業戦略を導く役割を担っています。
 この会社では、玩具の中でもある専門の製品を扱っていたため、狭く深いターゲッティングを行っていました。このメーカーで作られる安全性を深く追求した製品は評判がよく、一定の収益を上げています。
 しかし、今回例外なく不況の波にのまれ、最近では収益性が乏しい状況が続いていました。そこで、社内からコストカットによる人員削減案が強く出ていました。

 星野さんは、悩みました。不況といえばリストラクチュアリングの話題が巷を席巻しています、自社でもその流れに乗るべきなのだろうか?そう自問しました。
 ひとりで考えていたのでは埒があかないと思い立ち、有識者の意見を聞いてまわることにしました。

 一人目の意見は、利潤よりも会社のメンツを保つことを第一としていて、本当に有益な情報とは思えませんでした。
 二人目の意見は、壮大で一見魅力的な案を雄弁に語りましたが、あまりに投機的で実現性に乏しく、これも厳しく感じました。
 三人目は、社内の動きを自省して自浄作用をもくろむ案でしたが、失敗すれば悪循環に陥ることが懸念され、これもリスクが大きいものと判断できました。
 四人目は、数値ベースでわかりやすい案でしたが、実現するには管理コストがあまりにも高くついてしまう恐れがありました。
 五人目は、全体管理を厳しくすることで品質の統制をはかろうとするものでしたが、逆に自由な発想を損なってしまう恐れがありました。
 六人目は、高度な理論をベースとしていましたが、机上の空論に近いもので、実際のビジネスシーンにあてはめるにはやや難がありました。

 様々な意見を聞いていくにつれ、星野さんはますます悩んでしまいました。どの案も一長一短があり、決断に踏み切ることができません。

 星野さんは、原点に帰りました。この会社が今利益を得て、ユーザから支持を得られているのは、「安全性」につよくこだわったことが評価されているからだと分析したのです。

 ここで、事業を多角化することに踏み切りました。これまでの市場ではこれ以上大きな見込めないため、これまでやってきた分野とは異なる場へ進出しました。それぞれの事業における有識者を招き、足りないリソースはアウトソーシングにてまかなうようにしました。しかし、強みである「安全性」のノウハウを生かして展開し、どの事業においても強く意識するよう呼びかけたのです。
 
 この企業では、未知のジャンルへの挑戦ということで、はじめは痛みを伴いました。
 ユーザも最初の頃は戸惑いましたが、その会社がこれまで主製品としていたものは評判がよく、そのイメージが違う事業においてもついてまわりました。また、他事業においてもテーマがこれまで同様はっきりとしていたため、ブランドイメージを損なうことなく、よい収益を得ることができるようになりました。

 星野さんは成功をおさめることができました。
 この企業が強みとして持っていた「安全性」は、形を変えても製品一つひとつに活きていたのです。

 本当に大切なことは、目に見えないんだ―そう星野さんは思い、夜空を見上げました。

 今回の話は、これまでと少し毛色が異なります。
 これまでは、ビジネスを如何に目に見えるようにするか、といった部分にスポットを当ててきました。私が商売で使用している屋号も、mierka(みえるか)です。
 しかし、この可視化が有効でない、それを超えたフェーズも存在します。
 
 今回の重要なキーワードは、コア・コンピタンスです。

 この言葉をひも解いてみましょう。
 コンピタンス(competence):〜に必要な能力、力量、適正
 コア(core):核、中心
 つまり、コアコンピタンスとは、直訳では「核となる能力」となります。言外の意味を含めると、「他社には簡単に真似・追随できない能力」といったところでしょうか。

 この言葉は、ゲイリー・ハメルとC・K・プラハラードが1990年に論文で提唱した、比較的新しい概念です。
 核となる能力を持ち、その能力に基づいて経営を多角的に展開していくことが企業の永続性を高めるという主張です。

 ここでいう「能力」の大きな特徴として、「目にみえない」ということが挙げられます。通常、経営資源としてはヒト・モノ・カネが代表に挙げられますが、コアコンピタンスではそれらにあてはまりません。ここでは、技術、スキル、文化、特性や人脈などが挙げられます。
 
 具体的な例をいくつかみてみましょう。
 アップル社は、マックというPCを販売する会社で、シンプルでスタイリッシュかつ洗練されたデザインを売りにしてきました。昔からデザインや音楽制作向けに強く、根強い人気がありますが、OSではマイクロソフトのWindowsマシンがシェアの大半を占めていました。
 ある時、appleは、シンプル・スタイリッシュといったイメージはそのままに、携帯用音楽プレイヤー「iPod」を発売しました。この戦略は成功しました。爆発的な売上を記録し、以前はSONYのウォークマンが携帯音楽プレイヤーの代名詞でしたが、その座を奪還するに至ったのです。
 今ではその他にも、音楽配信サービスやiPhoneなど、コンセプトはそのままに、新しい事業をどんどん打ち出しては成功しています。

 次に、東芝の液晶技術。テレビから携帯電話、パソコン、各種家電に至るまで、その技術は如何なく発揮されています。この技術も、実際のところは、材料技術、光学技術、企画力などの複合されたものとなっています。

 国内ベンチャーに目を向けてみましょう。
 「面白法人カヤック」という企業があります。様々なwebサービスを展開している企業ですが、根底には「とにかく面白いことをやる」といったテーマがあり、突き抜けています。話題性がメディアを呼び、広報につながるという良い循環を持っています。
 
 長期的な展望の場合、はっきりと一つの物事だけに焦点をあてるべきではないでしょう。何か一つの物事に特化することは短期的にはとても有効です。しかし、時代の流れに連動して流行り廃りが発生します。保守が過ぎてしまい、あるひとつの物事に固辞し続けた結果、時代遅れになってしまったなどということは、往々にしてあることです。もう少し大きな、理念や憲章に近い形での「見えない」武器を身につければ、一生ものです。

 ここで気をつけなければいけないことは、時代が変化するにつれ、理論は変遷し、ユーザの趣味・嗜好も変わっていくことです。それにあわせて、コア・コンピタンスもカスタマイズしていく必要があります。

 「なんでもできます!」この言葉を言う人ほど信用できないなどといった話は、ところどころで耳にします。
 自身のコア・コンピタンスを形成し、補強し、肉付けしていくこと―これは、ビジネス人生をかけての一大テーマと言えるかもしれません。
posted by cozyjet at 06:00| Comment(0) | TrackBack(0) | フランス働話
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